秋田県能代市出身の山崎 栄さん。人生の半分以上を東京で過ごしてきたが、都会生活を卒業し、妻の朝子さんと娘さんとともに2013年から秋田県大館市での暮らしをスタートさせた。自然のなかで暮らす楽しみや秋田県の魅力を語ってもらった。
――地方への移住を考えたきっかけを教えてください。
18歳で秋田県の能代を出てからは30年以上、東京で俳優の仕事をしてきました。2010年に子供が生まれたのをきっかけに、田舎で暮らしたいという思いが強くなりました。当初は別の候補地を予定していたのですが、直前に東日本大震災があって一度白紙に。それから改めて考えたところ、もっと自然が豊かな秋田県の方がいいかなと思うようになりました。
移住先を探している時、たまたま大館市の移住体験モニターツアーに参加しました。そこで実際の暮らしをイメージでき、保育所や小学校などの環境が整っていることを確認できたので、移住を決意しました。
都会から移住してきた山崎さんご夫婦が求めていたのは何よりも自然環境だ。「夫婦2人なら山奥に住みたい」というほど。しかし、子供の教育のことも考え、商業施設や公共施設も整っている大館市に移住した。
住み始めて3年が経ったいまも、四季折々の秋田県の自然に感動を味わう日々だ。
――実際に暮らしてみていかがですか?
秋田県は四季がはっきりしています。例えば秋は紅葉がものすごくきれいで、冬の雪景色も美しい。冬の夜、薪を取りに家の外に出ると満点の星が見られることがあります。
その瞬間、その瞬間で、圧倒されるような感動的な景色に出会うことがあるのが、秋田県の自然の素晴らしさだと思います。
都会との違いを最も感じるのは、静けさです。特に冬に雪が降った夜などは、木が「パチッ」と乾燥する音が家の中まで聞こえてくるほど、贅沢な静寂があります。それから白鳥やカモシカなど野生動物を間近で見られるところも素晴らしい。
都会で暮らしていたからこそ、秋田県の良さをより実感できていると思います。
大館市は、秋田県北東部、青森県のお隣りに位置する人口約7万5千人の都市。四方を山に囲まれた盆地で、その中央を秋田三大河川である米代川が流れている。山と川、そして田んぼが広がる田園風景は、大館の大きな魅力だ。
東京の渋谷駅にいる「忠犬ハチ公」の犬種は「秋田犬(あきたいぬ)」だが、大館はそのふるさとである。伝統工芸品「大館曲げわっぱ」も有名。
――大変なことはありますか?
冬の寒さや雪は大変だと思うことはあります。ただ、この辺りは風が強くないので、真冬でも耐えられないほどの寒さではありません。また、雪かきは面倒ですが、家族で遊びながらやれば楽しいですよ。
人間関係については、周囲の人はみなさん良い人ばかりなので、困ることはありません。ずっと地元に住んでいる人たちのコミュニティにはなかなか入りにくいものですが、妻が積極的に交流してくれるので助かっています。
栄さんは現在、俳優業ではなく農業や林業関係の仕事に就いている。自然の中で働けることが楽しいという。いずれは劇団を設立して俳優業にも復帰したい考えだ。
妻の朝子さんは自然香房Tussie-mussiesでアロマテラピーやクレイセラピーの講師のほか、秋田杉のオリジナルグッズを企画し、ネットショップで販売もしている。「職探しをするより自分で仕事を創る」のが山崎流だ。
秋田県に暮らして始めて3年が経った山崎さん夫妻。お子さんは地元の認定こども園に通い、来春からは小学校に上がる。大館市は商業施設や病院などがコンパクトにまとまっているだけでなく、子育て環境の面でも満足しているという。
――こちらに来てお子さんはどんな様子ですか?
東京では集合住宅に住んでいましたから、走りまわったら「ダメ」と叱っていましたが、今の家は戸建で広いので伸び伸びと遊んでいます。虫をつかまえたり柿を収穫して一緒に干し柿を作ったりと、自然のなかで人間らしい本来の生活をさせてあげられるのが嬉しいです。
通っているこども園は、子供を型にはめようとするのではなく、それぞれの成長段階に応じて面倒を見てくれて、やりたいことや自主性を尊重してくれます。そのおかげで、子供は自分を自由に表現できているようです。
同じ地区の小学校で行われている、ひまわり油を作るプロジェクトに、こども園の子たちも参加させてもらい、楽しんでいます。小学校のお子さんたちと一緒に何かできるということがいい経験になっています。そのおかげか小学校に入学するのが楽しみのようです。
大館市立釈迦内小学校のシンボルである「ひまわり」をテーマに、小学生を中心に町の人々が参画する地域ブランド再構築プロジェクト。子供たちのキャリア教育の実践として「ひまわり」を栽培し、その種から出来る油を加工、販売する一連の流れから、農商工の繋がりを学んでいる。
――これからどんなことをしたいですか?
今住んでいるところから車で10分くらいの山沿いで、小さなカフェでもやりたいと思っています。人里離れたところであれば音を出しても大丈夫なので、劇場やライブハウスとしても使えて、みんなの表現の場というか、集まれるところをつくれたらいいなと考えています。
「こちらに来てからやりたいことしかやっていないから、毎日が新鮮で楽しい」と栄さんは語る。
山崎さん一家のような移住者だからこそ秋田県の魅力を再発見し、新たな価値を見出してくれることだろう。