鹿児島のお茶はおいしい。行く先々で出されたかごしま茶を飲むと、清々しく芳醇な香りとコクが口の中でスーッと広がる。実は、かごしま茶は、品質もトップレベルなのだ。鹿児島県人は、口にするモノすべて「うま味」にこだわっている。そんな県民性が、洗練された「かごしま茶」を作り出しているのだろう。
鹿児島のお茶と聞いてピンとこない人もいるかも知れないが、実は鹿児島は全国有数のお茶の産地だ。鹿児島県は、平らな土地に大規模な茶園が広がり、機械による効率化が進み、生産量は増加傾向にある。2018年の荒茶生産量をみると、鹿児島県は28,100トンと全国生産量のほぼ3分の1(33%)を占め、静岡県に次いで全国2位だ。
年間を通して温暖な気候に恵まれた鹿児島県では、日本で最も長期間お茶が生産される。3月末頃から種子島の「走り新茶」の出荷が始まり、4月上旬頃からは本土で栽培された新茶が出回る。
また、産地によって味に個性があり、霧島茶など県北部の標高が高い地域で栽培された茶は、澄んだ緑色で上品な香りとうま味のバランスが良く、万人に好まれる味わいだ。
一方、知覧茶、志布志茶、枕崎茶など県南部の茶は、深蒸しによる濃い緑色が特長で、味と香りがはっきりしていてうま味が強く、濃厚なお茶を好む人に人気が高い。
さらに、高品質でより安全・安心なお茶を提供するため、生産履歴の記帳と開示や、かごしま茶基礎GAP(安全と安心、品質向上等に関するかごしま茶独自の生産工程管理基準)に基づき、各種GAPや有機JAS等の第三者認証の取得にも力を入れている。
このような努力が実り、2018年開催の第72回全国茶品評会審査会では、普通煎茶10kg部門において、最も優秀な産地に授与される「産地賞」を15年連続で受賞するとともに、1位から8位まで鹿児島県産のお茶が独占という快挙を達成する。かごしま茶は、全国の茶のスペシャリストに選ばれた日本一のお茶なのだ。
お茶にこだわりを持つ人が多い鹿児島において、創業130余年の歴史を誇る「お茶の美老園」は、鹿児島市内の中心地にある本店を始め全11店舗を構える銘店だ。
今回は本店副店長の比良智子さんに、かごしま茶の特長を教えてもらいながら緑茶を試飲した。
最初に飲んだのは鹿児島を代表する銘茶「さつまほまれ」を中心にブレンドしたワンランク上の煎茶「凰秀」。トロッとした濃い緑色をしていて濃厚な緑茶だと分かる。茶碗に鼻を近づけただけでフワッと甘い香りが漂う。口に含むと甘みと渋みのバランスが絶妙だ。
「上品な甘みとうま味どちらも楽しめ、飲んだ後に微かに渋みが残ると思います。この力強い味が特長ですね」と比良副店長。比較的県南部で栽培されたものを使い、より鹿児島らしい特長が出ているお茶だそうだ。
比良副店長は「かごしま茶は単品種でもおいしいですけど、複数の種類をブレンドすると、味や香りに深みが出てよりおいしくなるんです」とかごしま茶の特長を語る。品種の組み合わせや配合率は店によって異なるため、茶葉のブレンドは店の腕の見せどころといっても過言ではない。
「トロッとして力強い味が苦手という方にはこれをお薦めしています」と比良副店長が出してくれたのは「特選奥霧島茶」。県北部の霧島産地で育まれた茶葉は、透明感のある緑色で清々しい香りがする。上品な渋みのせいか、まろやかであっさりしているように感じる。飲み込むとキレがよく、後味がさっぱりしているのも特長だ。
次は「特選鳳苑」。芳しい香りとまろやかでコク深い味が特長で、湯冷まししたお湯で淹れるとうま味がじっくり引き出され、さらに豊かな味わいになる。お茶の美老園で一番人気というのも納得のうまさだ。
「とっておきの深むし茶」は、茶碗の底が見えないぐらい深い緑色をしている。茶葉の蒸し時間を長くすると水色がより濃くなりコク豊かになるのだとか。香りが強く濃厚な味なので甘いお菓子と相性が良さそう。
試飲させていただいたものは、全て水色、香り、うま味が違い、別の飲み物としか思えない。普段、茶葉の味や香りなどを意識しながら緑茶を飲むことがなくても、実際に飲み比べればそれぞれの特長が良く分かるだろう。
比良副店長は「濃いお茶は甘いもの、ほうじ茶や番茶はおせんべいなどの塩辛いものと合わせるのがオススメです」と話すが、どのお茶も味に特長や個性があってそれぞれのおいしさがあるので、何を選べば良いか迷ってしまう。
「かごしま茶の選び方は、まずは飲み比べて自分の好みを見つけていただければいいかなと思います」と比良副店長。
毎日飲むものだからこそ、自分の嗅覚と味覚に合ったものを見つけることが大切なのだ。
創業130年余のかごしま茶の老舗「お茶の美老園」は、鹿児島県内で育まれた茶葉の品種と旬にこだわり、茶師の熟練の技で仕上げたお茶を販売している。店内には、手軽に入れられるティーパックタイプから本格的なお茶まで幅広い品揃えだ。湯呑、急須、湯冷ましなど、お茶関連の道具も揃っているので、ここに来ればお茶に関するものは全て揃えることができる。
美老園には、日本茶インストラクターや日本茶アドバイザーの資格を持つスタッフが、好みに合ったお茶の選び方やおいしいお茶の淹れ方も教えてくれるので、気軽に相談してみよう。
なお、「お茶の美老園」は、出汁のおいしさを伝える啓蒙活動をしている 出汁プロジェクトの参加企業だ。
自宅でもおいしい緑茶を淹れたいけど上手に淹れるのは難しそう、と二の足を踏んでいる人も少なくないのでは?
しかし、比良副店長によると「ポイントを押さえれば、手軽においしいお茶を淹れられますよ」のこと。そこでお茶を上手に淹れるコツを教えてもらった。
まず、水は硬度が低い軟水を使うと、緑茶本来のうま味、渋味、苦味がバランスよく抽出されるとのこと。逆にミネラル分が多い硬水を使うと、うま味成分がうまく溶け出してくれないこともあるそうだ。
さらに温度も重要なポイントだ。「高温のお湯で淹れると、香り高く渋みで引き締まった味になり、低温だと、柔らかな香りでまろやかな甘みとうま味が引き出されます。」
お茶には、甘みとうま味の成分テアニン、渋みの成分カテキン、苦みの成分カフェインなどが含まれている。お湯の温度が低いとテアニンが出やすく、温度が高いとカテキンが出やすくなるため味に違いが生まれるのだ。
湯の温度はパッケージに書いてあるものを目安にしよう。温度計がない場合は、「沸騰したお湯を湯冷ましに移した後、湯のみ茶碗へ移すと下がる」と覚えておくと便利だ。湯冷ましがないときは、湯のみ茶碗でも代用可能だ。
急須に茶葉と適温の湯を注いだら、蓋をして50秒ほど静かに待つと、茶葉がゆっくり開き、うま味 がより一層引き出される。茶碗に注ぐときは、2、3回に分けて、濃さと味が均等にすることも大切だ。最後の1滴は「黄金の1滴」といわれるほどうま味が濃縮しているので残さずに注ごう。
近年、緑茶は健康に良い飲み物としても注目されている。緑茶には、ビタミンCやB2など美容や健康に欠かせない栄養素がたっぷりだ。渋み成分カテキンは殺菌作用、うま味成分テアニンは、リラックス効果なども期待できる。煎茶の場合1杯当たり約15~30mgの苦み成分カフェインが含まれているので、ちょっと濃い目に淹れたお茶は仕事や家事の合間のリラックスタイムにも眠気覚ましにもぴったり。
鹿児島の人は、地元のかごしま茶が大好きだ。味と香りがはっきりした濃厚な茶を好む人が多いのも、うま味にこだわる人が多い鹿児島の特長かもしれない。近年、ペットボトルのお茶が増えたが、茶葉から淹れたものは色、香り、味とも格別であり、飲んだ後の満足度も違う。わずか数分の手間で、より豊かな気持ちになれるのだから、たまには茶葉から淹れたお茶を楽しんでみよう。
年間を通して温暖な気候の鹿児島は、柑橘類の栽培も盛んである。中でも鹿児島・桜島特産の「桜島小みかん」は、直径4~5cm程度と国内最小のみかんだ。小粒だがフルーティな香りが強く、甘みも抜群だ。
お茶の美老園では、桜島小みかんの皮とかごしま茶をブレンドした「桜島小みかん茶」を販売している。柚子こしょうに似た水色をしたお茶を飲むと、柑橘系の爽やかなフレーバーが広がる。まさしく和のハーブティーだ。和菓子はもちろん、洋菓子とも相性抜群。お茶ファンはもちろん、普段緑茶を飲まない人も味わいたいお茶だ。