秋田県大館市のJR大館駅前。2頭の小さな秋田犬(あきたいぬ)が観光客を出迎えると「かわいい」という歓声が次々に起こる。秋田犬の名前は「飛鳥」と「あこ」、生後3カ月の姉妹だ。2頭の仕事は、大館市を訪れた観光客を出迎えること。そして、2頭と一緒に、「秋田県の魅力を発信したい」と活動する4人の女性がいる。それが「地域おこし協力隊」のメンバーだ。
秋田県大館市は秋田犬のふるさとである。忠犬ハチ公でおなじみの秋田犬は、国の天然記念物にも指定されている大型犬だ。秋田犬は海外で「Akita」と呼ばれ、近年人気が高まっている。
2015年 Googleで「Akita」が検索された数は月間平均約55万件、これはTokyo(東京)とほぼ同数である。秋田犬は海外でも興味関心が高い犬種なのだ。
大館市を訪れる観光客は、秋田犬が目的という人も少なくない。しかし、秋田犬のふるさとである大館市でも、秋田犬を飼育する人は減少しつつある。
「以前、秋田犬を飼育していた人が、高齢を理由に飼育を断念してしまうのです。」(大館市観光課の川上さん)
「そこで、大館市は“秋田犬と一緒に地域の観光振興に貢献すること”を目的とした“地域おこし協力隊”を募集しました」。
「地域おこし協力隊」とは、地域外から移住した隊員が地域活動を行うプロジェクトのこと。期間は3年以下で活動内容は自治体ごとに異なる。
その後、厳正なる審査の結果、4人が大館市の地域おこし協力隊に選ばれ、2016年9月から「秋田犬と一緒に生活しながら、秋田犬と大館市の魅力を国内外に発信する」活動を開始した。
埼玉県出身の富澤さんは、かつて自宅で秋田犬を飼っていたこともある大の秋田犬ファン。「今は、毎日秋田犬と触れ合うことができて幸せ」と秋田犬三昧の生活を心から楽しんでいる。
「秋田犬保存会の皆さんから、秋田犬に関する話を聞くことができる」のも楽しみの一つだ。
千葉県船橋市から移住した鈴木さんは、動物が大好き。学生時代にアメリカ留学した経験を活かし、「海外の人は日本というと東京、大阪など大都市というイメージがあるけど、東北地方の秋田県という独自のよさを世界に広めたいと思った」のが応募の動機だ。
小山田さんは千葉県香取市から移住した。ゼロダテアートセンターで飼っている秋田犬『ののちゃん』のファンで、以前から大館市のことは知っていた。
大館市が地域おこし協力隊を募集していると知り、「『ののちゃん』が住む土地で、秋田犬と一緒に仕事ができるなんて!」と応募したという。
福岡県から移住した西山さんは、以前から大型犬と一緒に暮らしたいと思っていたが、条件に合う住居が見つからなかった。
「大型犬と一緒に暮らせるなら、地方へ移住するのもいいなと思ったんです」。そのとき大館市の地域おこし協力隊募集のことを知り、念願の大型犬との共同生活を実現した。
地域おこし協力隊メンバーの主な仕事は、“飛鳥”と“あこ”の世話や、駅や空港などでの旅行客の出迎え、地元イベントの参加など。日々の活動をツイッター、facebook、インスタグラムなどのSNSにアップして世界中の秋田犬ファンに情報発信することも大切な仕事だ。
富澤さんは「“飛鳥”や“あこ”と散歩していると、観光客だけでなく地元の人からも『かわいい』と声をかけてもらうと本当にうれしい」という。
10代の頃、盛岡に住んでいた鈴木さんは「2頭を見ると、みな笑顔になるのが嬉しいですね。東北の人はシャイだと思われがちだけど、大館の人はとても気さくでフレンドリーですよね。まるでアメリカみたい」。
今後の抱負について、4人は「秋田犬ファンが秋田県を訪れたとき「あったらいいな」と思うサービスや物を増やせたら」と考えている。
小山田さんは「以前秋田県への旅行を計画したとき、ゼロダテがお休み中で『ののちゃん』に会えず、大館行きを見送ったことがあるので、いつどこに行けば秋田犬に会えるかなど、旅行者にとって役立つ情報を発信したい」と語る。
西山さんは、「今後は、秋田県だけでなく東北各県のイベントにも参加して、他県の皆さんとも交流を深めたいですね」と考えている。
彼女たちのチャレンジは始まったばかりだが、すでに地域交流の架け橋の一端として精力的に活動している。「秋田犬が大好き」という想いとともに発信される情報は、世界中の秋田犬ファンが、大館市に足を運ぶきっかけにつながるだろう。