農山漁村地域の生活を体験する「グリーン・ツーリズム」は、外国人旅行客にも人気の観光プランだ。秋田県仙北市は、地域ぐるみで外国人旅行客の受け入れに取り組んでいる地域である。
東南アジアを中心とした外国人旅行客が、次々に仙北市を訪れて、農家に宿泊し、秋田県の自然や文化そして人との触れ合いを楽しんでいる。秋田県仙北市がグリーン・ツーリズムの目的地として人気を集める秘訣はどこにあるのだろうか。
秋田県仙北市で農業を営む門脇富士美さんが、農家民宿「星雪館(せいせつかん)」をオープンしたのは1998年。門脇さんは「当初は日本人のお客さんばかりでした」と振り返る。後に、こんなに外国人旅行者が多くなるとは考えたこともなかったそうだ。
外国人旅行客を初めて受け入れたのは2012年。宿泊したアメリカ人の旅行客を片言の英語とジェスチャーを交えておもてなしをするうちに、海外の人と触れ合う楽しさに目覚めた。
当時、門脇さんはインバウンドを意識してなかったが、この時のワクワクが忘れられず「星雪館にきた人は国籍問わず喜んで迎え入れよう」と決心したのだ。
その後、タイや台湾、中国など秋田県や仙北市が積極的にインバウンドに力を入れるのとタイミングも合い、グリーン・ツーリズムを目的に秋田県仙北市を訪れる人が急増。星雪館は「今では海外から直接予約が入ることも珍しくなくなった」という。
現在、門脇さんは、農家民宿のコーディネートなどを行う仙北市農山村体験推進協議会の会長も務め、市内の他の農家民宿等とも協力して、個人から団体まで多くの旅行客を受け入れている。
星雪館の利用者は、台湾や中国など東南アジアからの旅行者が多いが、時にヨーロッパなどからもお客さんが来ることもある。つい先日もふらっとスウェーデン人が泊まりに来た。東京、富士山、京都などのゴールデンルートと呼ばれる有名な観光スポットは一通り訪れたことがあるリピーターが、日本の自然や普通の暮らしを求めてこの地を訪れるという。
近所を散歩して秋田県の自然を堪能したり、一緒に買物をしたりなど、日常の何気ない出来事の一つ一つが、外国人旅行客にとっては貴重な体験なのだ。
星雪館の館内は、まるで親戚の家のような雰囲気だ。門脇さんは、いつも屈託のない笑顔で温かくもてなしてくれる。初めて訪れた人もリラックスしてくつろげる心地よい空間だ。食事は、自宅で育てた野菜や山菜などを使った家庭料理が食卓に並ぶ。
「外国人旅行客の方にも同じ料理を出しています」と門脇さん。
外国人相手でも身構えることはなく、なにか特別な農作業プログラムを用意しているわけでもない。あくまでも素朴な田舎の生活をそのまま体験してもらう。
門脇さんの気さくな人柄と素朴だけれど心のこもったおもてなしに、訪れた外国人はみな心を打たれるのだろう。
決して派手さはないが、日本の素朴な生活を心から楽しめる場所。仙北市のグリーン・ツーリズムが人気を集める理由だ。
外国人旅行客は年々増加する一方だが、1軒の農家で受け入れ可能な人数は多くても5、6人程度。現在宿泊可能な農家民宿は33件あるが、今後ますます外国人旅行客は増加することが予想されるため、受け入れ対応可能な農家民宿を増やす必要がある。
農家民宿のコーディネートなどを行う仙北市農山村体験推進協議会では、今までも修学旅行の受け入れや郷土料理の勉強会などでお互いにつながりを持ってきた。
そして、ここ数年の外国人旅行客増加に対応するため、例えばムスリムフレンドリーの勉強会をやってみたり、料理の情報交換をしたりと、農家民宿同士の絆もさらに深くなっている。あくまでも各農家の自主性を尊重しつつも、ゆるやかなネットワークでつながり続けているのだ。
農家民宿などの農山村体験を通じた都市部との交流人口の増加による地域活性化を目指し、2008年に設立。観光協会や農協、行政機関など業種の枠を越え地域が連携し受入を実施している(事務局:仙北市農山村体験デザイン室)。
2015年「第13回オーライ!ニッポン大賞」受賞、2016年「ディスカバー農山漁村の宝(第3回選定)」優良地区選定。
門脇さんは「農業は楽しいけど、気候の影響によって収入が大きく変化する仕事。農業と農家民宿などを組み合わせることで、小さいながらも複数の事業を営むことになる。それによって、贅沢はできないまでも生活する上で必要十分な収入を得ることができる」と考えている。言い換えれば、これはリスク分散。小規模農家が豊かに暮らす工夫ともいえる。
門脇さんを中心とした秋田県仙北市の農家民宿は、農業と田舎暮らしという身近なコンテンツを組み合わせることで、中山間地の小規模農家における新たなビジネスモデルを構築することに成功した。
今後、農家による起業や事業多角化は、小規模農家が生き残っていくための新たな活路になるだろう。
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