鹿児島県は、大小約600もの島を有している。そのうち有人離島は26あり、それぞれの島は独特の風土や文化を持つ。同じ鹿児島県民でも離島に来れば、まるで異国に来た感覚を抱くこともある。そして、訪れた島があまりにも自分のフィーリングにあってしまい、そのまま移住してしまう人も多いと聞く。鹿児島県の有人離島にはどんな魅力が隠されているのだろうか?
鹿児島の島々の代表ともいえるのは、1993年に世界自然遺産に登録された屋久島だろう。本土最南端・鹿児島県佐多岬の南南西、約60kmの海上に浮かぶ島だ。
樹齢数千年の屋久杉や照葉樹林の原生林、ウミガメが産卵する美しい浜、身近に見られる野生動物など、とにかく屋久島には見どころがたくさんある。
屋久島の大自然を、ビギナーからベテランまで誰でも存分に楽しめるトレッキングコースが用意されているのが白谷雲水峡だ。広大なエリア内に屋久杉や照葉樹林の森林が広がる。
何百種類ものシダや苔が、岩や木々にびっしりと覆い被さる様子は、まさに有名アニメ映画を思わせる世界。トレッキング4時間コースの終盤に位置する「苔むす森」はそのモデルにもなったとされ「もののけの森」とも称されている。
一歩足を踏み入れれば、原始の森の息づかいを五感で味わうことができる。
「屋久島では、樹齢1,000年を超す杉を屋久杉といい、多くの屋久杉が存在します。しかし立派な杉もいつかは寿命が来て、倒れてしまう。その倒れた杉の上にも新たな杉が芽を出し、また大きく育ちます。そんな森の循環の様子を、白谷雲水峡では間近に見ることができます」
そう説明してくれたのは、今回ガイドをお願いした屋久島ガイドクラブの木全 浩さんだ。「月のうち、三十五日は雨」と表現されるように、屋久島は年間 4,000~10,000mmの降雨がある、日本一雨量の多い島。この豊富な雨量が木々を育み、森の世代交代を促している。
直径30kmのほぼ円形のなかに、九州最高峰の宮之浦岳などいくつもの山々がそびえる屋久島では、「垂直分布」といわれる植生が見られる。人里付近はブーゲンビリアも咲く亜熱帯の気候だが、山を登るごとに気温が徐々に下がっていき、山頂付近ではついに北海道なみの亜寒帯気候となる。日本全域の気候と自然が、屋久島にぎゅっと詰まっているのだ。
屋久島の特産にはいろいろあるが、まずは首折れサバを味わいたい。屋久島近海で漁獲後、鮮度を保つためにすぐに首を折って血抜きをしたサバのことだ。新鮮なので刺身として食べられるのはもちろん、サバ節にも加工される。
島内最大の土産物店・屋久島観光センターでは、レストランも併設されており、当日の水揚げ次第だが首折れサバや飛び魚などの魚料理を楽しむことができる。
白谷雲水峡以外にも、屋久島で見るべき「山」はたくさんある。樹齢推定3,000年ともいわれる縄文杉は、確認されている最大の屋久杉。3~4時間の登山の末に、姿を現す。その登山ルートの途中にある巨大な切り株「ウィルソン株」と合わせて、人生で一度は訪れたいスポットの一つだ。
もっと手軽にハイキングしたいなら、「ヤクスギランド」がおすすめ。その名の通り、屋久杉を観察できる森で、30分から150分まで体力に合わせてコースを選ぶことができる。
ガイドの木全さんの案内で、日本有数規模の照葉樹林を通る西部林道を訪れた。約20kmにわたる人気の無い林道で、野生のヤクシカやヤクザルに出会える場所でもある。
「西部林道が昭和の中頃に完成したことで、車で島を一周できるようになりました。それまでは、隣の集落に行くのに船を使っていたのです。屋久島には今でも方言が16種類あるのも、地形が険しく、集落が分断されていたためです」と木内さん。
「西部林道は車で通るだけの人が多いですが、じつは森の中に入っていくことができます。森を散策すれば、屋久島独特の垂直分布を眺めることができますよ」
屋久島のイメージといえば森だが、「海・河川」も魅力的だ。たとえば一湊(いっそう)海水浴場は屋久島一の広さを誇る海水浴場で、海中の巨大なサンゴ群やダイナミックな地形をシュノーケリングやダイビングで楽しむことができる。
永田いなか浜は屋久島では数少ない砂浜で、ウミガメが上陸し、産卵する場所として有名だ。
豪快な自然を持つ屋久島では、滝も豪快だ。日本の滝百選にも選ばれた大川(おおこ)の滝は、九州一の高さを誇る88メートルの断崖から水が滑り落ちる。
多様な屋久島の魅力を、限られた文章と写真だけ伝えるのは難しい。ぜひ、現地に行って全身で味わってみてほしい。
屋久島は、フィールドを熟知した現地のガイドさんに案内してもらえば、より安心して回れるうえに、知的好奇心も満たされる。今回案内をお願いしたのは、屋久島公認ガイドの屋久島ガイドクラブ。縄文杉トレッキングやシュノーケル、リバーカヤックなどさまざまな体験メニューをそろえている。